教科書

 マッサージ師のTさんは84歳だが知識欲旺盛で、元気がいい。私の体をマッサージしながら得たばかりの情報を教えてくれる。「軽(自動車)でも、150万はかかるそうだ。姉が、今乗っているポンコツでいいと言っているのにしつこいセールスマンに負けて新車を買うことにした」。驚いた、84歳のTさんのお姉さんだから85以上だろう。その人が新車を買うとは。免許を返上しても当然の年齢だ。
 この話から始まって、話題は豊富だ。小学校時代の教科書の話になった。「先生の頃は(Tさんは私のことをそう呼ぶ)、サイタ、サイタ、サクラガサイタでしたか」、「そうだったかな」、「私の頃はアメ、カサ、カラカサ」でした。戦前のことだ。「でも、私の教科書は点字でしたので、皆さんとは違っていたことでしょう」、「アは一点で、メは6点で」と点字の仕組みを教えてくれたが全くわからない。「ア段ばかりのカサやカラカサは点字の基本を学ぶのにいい」。
 そこから話は飛んで、「カラカサといっても今の若い人にはわからんでしょうね」。「カサと言えば今はこうもり傘のことですから」。カラカサから骨董の話になり、そこから…。話題はつきない。
 Tさんは私と話すときは冗談が多いようだ。二人とも落語好きで落ちやダジャレがわかり合える。遠慮なく言いたいことが言える。「その後調子はいかが?」、「少しだけよくなったようですが、まだ…」、「それがちょうどいい。完治したら客がなくなり金がもうからん。よくならんとヤブだと言われて客がこん」。こんな具合で、一時間は直ぐに過ぎる。

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